モンハン小説
 一話
 
俺はジン。俺の家は代々のハンターの家系だそうで、この家の男は皆18になるとハンターになっている。もちろん俺も例外では無く、今日は俺の初ハントという訳だ。親父も息子がハンターデビューするって喜んでたな…。早く俺と同じレベルのハンターになってみせろとかも言ってたっけ。
 でもなぁ、親父…。初ハントだってのに何でこのレベルのクエストを請けさせたんだ?
 ドスランポスってのは初ハントにぴったりのお手軽なモンスターだったか?
 取り合えず帰ったらあの生意気な親父を一発ぶん殴ろう。…生きて帰れたら。
 
 
 二話
 
指定地の密林のキャンプに着いた俺は柄にもなく緊張していた。
 武器はハンターカリンガ、防具はハンター装備一式。どっちも新米の俺にはぴったりで、相応に頼りない。持ってきたアイテムは砥石がいくつかと、回復薬や薬草もある。後者は使わなければいいんだが。
「特に忘れ物は無いみたいだし、取り合えず進むか」
 キャンプ地から崖沿い右に進むと、名前の通りの密林が姿を表す。近くには草食獣が何体かいるが今は関係ない。地図によるとまだ上にもエリアはあるみたいだ。
更にまっすぐ進むと遠くに青い影が見えてくる。
「ドスランポスか?」
いや、それにしては小さい。なら…。
「ランポスみたいだな…」
少し安堵し、足音を立てないように気をつける。
そのままランポスに背後から近寄り武器をそっと抜く。距離が1メートル近くまで狭まった時、足元で枯れ葉を踏みつけた音がする。
途端、ランポスがこちらに振り向く。俺はその刹那、ランポスの喉にカリンガを突き刺し、体を掴み横に倒す。親父に教わったテクニックだ。
 ランポスも初めは暴れ、抵抗したがその内動かなくなった。
 
 
 三話
 
「思ったより弱かったな…」
 呟きながら、俺は不慣れな手付きでランポスから皮と爪を剥ぎ、素材袋に入れる。
 でもまだクエストは終わってない。今回の目標はランポスではなくドスランポスなんだ。油断は即、死を招くというのは親父の教えだ。……でもこの調子なら、案外簡単に済むかもしれないな。

 その時、俺の脳が警報を鳴らす。俺は予感に従い、前に跳ねる。跳ねた直後、後ろでドスンと音がする。
 急いで振り向くと、そこには立派なトサカを持ち、明らかにさっき倒したランポスより一回りも二回りも大きい奴が居た。
「こいつがドスランポスかっ!」
 予感に従って正解だったと思う。こんな奴に潰されたら怪我じゃ済まなかったはずだ。
 まず俺は距離を取り背中から盾を外し、相手の様子を見る。さっきみたいに奇襲は出来ない。ここからは俺とこいつとの戦いなんだ。
 
 
 四話
 
 武器を構える俺と爪を立てるドスランポスが向かい合う。互いに微動だにせず、相手を黙視する。相手の一瞬の隙を狙っているんだ。
 沈黙の中、緊張で俺の心臓はバクバクいってるがこの緊張はむしろ心地いい感じがする。自分の命がかかっているというのに、楽しいとさえ思う。この沈黙がずっと続けばいいのに、と。

 先に沈黙を破ったのはドスランポスだった。
 人間では有り得ない高さまで跳躍し、俺に飛びかかってくる。多分、最初に俺にしてきた攻撃だ。
 俺はバックステップをして難なく攻撃をかわし、相手に攻撃しようとする。あの高さから着地すれば少しは隙が出るだろうと考えたからだ。だが、モンスター相手に人間の常識は通用しないらしい。奴は着地した直後、俺がしたようにバックステップをしたのだ。
「なっ…」
 喉に狙った一撃は顔に掠っただけで終わった。俺は慌てて体勢をなおし、相手を見る。
 やっぱり、さっきのようにはいかないか…。
 
 
 五話
 
少し予想外な事もあったが、次はこっちから仕掛けてやる。待つのは性分じゃないんだ。
 俺はドスランポスに向かって走り出す。3メートル程のの距離は一瞬で縮まり、ドスランポスが慌てて噛みつこうとするのが見える。
「残念だったな、それは予想済みだっ!」
 俺は向かってくるドスランポスの口に突き出すようにカリンガを全力で突っ込む。
 俺の手ごと突っ込まれたカリンガはドスランポスの喉まで完全に貫通していた。これならまず即死だ。
 
 
 六話
 
突っ込んだカリンガと腕を口から引き抜く。腕にはドスランポスの歯が少し刺さって、結構血が出ている。
 傷口に水筒の水をかける。
「つっ…」
しみる。滅茶苦茶しみる。ていうか痛い。
 そこに回復薬を塗り、また痛い思いをした後はようやく剥ぎ取りの時間だ。
 まずランポスの物より堅く、鋭い爪と触り心地の良い皮を剥ぎ取る。
「他に剥ぎ取る物は…、そうだ」
俺はある事を思いつき、実行する。
 ドスランポスの頭を丸ごと切り落としたのだ。こうすれば俺がドスランポスを狩ったという証拠にもなる。
 気分は上々。俺はパンパンになった素材袋を持ち、ベースキャンプに戻った。そしてクエスト終了の発煙筒を焚く。
 しばらく待っていると、ギルドの迎えの船がやって来た。
 
 こうして、俺の初ハントは終わったのだ。
 
 
 七話
 
 あれから数時間後。俺はギルドから報酬金を貰い、無事に家に帰ってきた。
 俺が帰ってくると、親父は嬉しそうに「おぉ、やっと帰ってきたか!」と言って俺を食卓に座らせる。食卓にはお祝いの時にしか食べないような豪勢な料理が並んでいた。親父が作ったんだろう。普段は面倒と言って作りたがらないが腕前は確かだから。
「で、どうだったよ。初めての狩りは?」
向かいの席に座りながら親父が聞いてくる。さも嬉しそうに。
「あぁ!聞いてくれよ!」
それから俺は旨い料理を食べながら親父と話し続けた。今日の狩りの事、今までの訓練の事、そしてこれからの事…
 
ー翌日、俺は例のドスランポスの頭を剥製にして部屋に飾った。防具屋の人によるとそれで防具が作れたらしいけど、最初の相手は覚えておきたいじゃないか。
 
 まだまだ俺のハンター生活は始まったばかり。これからも色々なモンスターと戦いたい。
 村の為に、何より自分の為に。