二部 一章 中編 その①
 一章 王女とシュレイド王国 中編 その①
 
馬車にゆられて約三日間が経つ。しかし未だに着かない。と、そこで隣で座って
いた王女が口を開いた。
「ジャックさんっていつからハンターの仕事をしているんですか?」
「え?あ、あぁまだ二年ぐらいだよ。しかしこの二年間色々あったな~。」
「例えば何ですか?もしよかったら話して下さらない?」
「でもつまらないと思うよ。ハンター初めて最初の狩りの時......」
 
.....あれはまだ、ハンター初めて一週間経った日だった。
俺はいつものように、チェーンシリーズと呼ばれる、安く
新米ハンターがギリギリ手の届く値段の防具を身に纏っていた。
だから武器はショボく、竜骨で作られた〈ボーンブレイド〉と呼ばれる
大剣を使っていた。まぁ飛竜を狩るわけでは無いので、
別に物足りなさは感じていなかった。そして採取の依頼でも受けようかな
と思った時、ふと目に入った依頼があった。
〈生肉と特産キノコの採取〉
・各10個ずつ。
・報酬金 1800ゼニー
「おぉぉぉ!採取の依頼にしては高額じゃないか!それと......ドスランポスに遭遇する可能性大......か。」
今まで狩ったことのあるモンスターは、モスとアプトノスとランポスや、
ケルビぐらいだ。この時、俺はまだココット村に住んでいた。
「ふぅん....どうしようかな?他の奴等にとられるまえに、受注しようかな?...よし!」
ついに受注してしまった俺。大変な目にあうことを知らずに.....
 
依頼を受けた俺は、密林へと向かった。馬車に揺られ約三日間。
俺はいつものように、武器に刃こぼれがないか確かめ、馬車を降りる。
俺は支給品が納めてある青く大きな箱の中を覗く。さすがに採取の依頼では
地図と携帯食料ぐらいか.....俺は箱の蓋を閉じ、その上に地図を広げる。
「アプトノスが出る場所は確かここらへんだったな....」
俺が地図に指を向けている場所は、〈区域1〉だ。エリア1とも呼ばれる。
ここは高い木に囲まれていて、キノコもある。だが希に飛竜や、
盾蟹と呼ばれるダイミョウザザミが現れる可能性がある。
だが悪魔で可能性なので、出ない確率の方が高いだろう。
(よし、じゃあ言ってみるか....)
と携帯食料を強引に口に詰め込み、〈区域1〉に向かった。
 
〈区域1〉に到着し、身を低くし辺りを見回す。幸い飛竜や、盾蟹は居ない様だ。
「アプトノスは.....いたいた。五頭か。逃げられる前に!」
まず一番近くにいたアプトノスにバレない様にゆっくり近づき、武器の柄に
手を添える。そして、剣を抜刀しアプトノスに斬り掛かる。
「ギシャアァァァ!」
剣は肉を斬り裂き、血を噴出させる。そして逃げないよう、足の
腱を斬る。一頭がこちらに気づき、鳴いている。逃がすかと、言わんばかりに
こちらに気づいた一頭の頭に剣を振り降ろし、頭蓋骨を砕く。
(...あと三頭!!)
俺はそう呟き、剣の柄を握り直し、三頭でかたまっていたアプトノスを
まとめて剣を横薙に振るい、斬りつける。そして三頭は絶命した.....
「ふー。さてと、剥ぎとるか。」
腐る前に肉を剥ぎとり、腐るのを防ぐ為薬草を肉に、塗り込む。
薬草には、腐敗を防ぐ効果があるらしく、色々な所で重宝されている。
「肉は、揃ったからあとは特産キノコだな。」
地面に生えている特産キノコを見つけるのは以外に難しい。間違えて
マヒダケを触って痺れてしまう者は、少なくない。
と後ろに、
「ボゴォン!!」
という音がした。まさかな、と後ろを向くと
 
そこには.....赤い甲殻に大きな爪を持つ甲殻種、盾蟹ダイミョウザザミ
がいたのだ!
「うっそだろぉぉ!!?」
俺は慌ててその場から逃げ出す。だが、後ろを向くと盾蟹の姿は無い。
と、足元が揺れてるではないか!
「うおぉわぁぁ!!」
とっさに前に転がって、地面から飛び出す巨大な一本角を避ける。
「わあぁぁぁぁぁ!!」
今の俺には、戦うなんて事は考えもしなかった.....
 
「くっ!どうすりゃいいんだ!」
このまま逃げていてもいずれはあの一本角に身を、貫かれるのが
落ちだ。
(こうなったらやるしかない!)
と覚悟を決め、武器を構え、挑発する。奴もそれを察し、挑発にのり、
地表に出てくる。俺はその隙を見逃さない。剣を振りかぶり、
「うおぉぉぉぉ!!」
雄叫びをあげ、振り降ろす。
「ガッシャイィィィン!」
.....この鈍い感じ、この音、嫌な予感がして武器を見る....
武器は今の一撃で簡単に刃こぼれした。砥がないと使い物には
なりそうにない。
「やっぱボーンブレイドでは、無理があるよな.....」
とっさに武器をしまい、駆け出す。もう戦っても無理だと分かったからだ。
「ちきしょー!武器を強化しとけばよかったーー!!」
と嘆き叫ぶ。〈区域2〉になら、奴はこれないはず。俺はそれを願い
ひたすら走り続けた.....
 
〈区域2〉、それは今の俺にとってはパラダイスだった。
「よっしゃー!逃げきった!しかし二度目のクエストでいきなり盾蟹と遭遇するとは...」
そう、実は俺はこの依頼が二度目。十歳からハンター関係の仕事を
貰い、十七歳でようやく狩りにでられるのであった。俺の親父は、
この依頼が終わってから、ココット村に亡骸となって帰って来たのだ。
女王の魔の炎から、俺をかばってな.......
 
俺はその後、ドスランポスと遭遇したんだ。だが俺は隠れて
何とかその場を凌いだ。そして身を起こしたその瞬間だった。
上空には、美しく残酷で密林そのものが飛んでいた。
否、それは密林の王女、雌火竜ーリオレイアー
「なっ.....め、雌火竜だと....」
実際この目でみたのは初めてだった。思わずその姿に魅了されていた。
美しい緑色には、どこか刺があり、恐ろしい。そしてそいつは
俺の百メートル前で舞い降りた。と、途端奴は吠える。
そして俺はその威圧感と恐怖によって体を硬直させる。
「あ、なん...で体が動かないんだ!?」
初めての体験で動かない理由が分からない。そして奴は突進してくる。
「あれ?俺は死ぬのか?」
俺はそれしか考えなかった、いや恐怖によってそれしか考えられなかった。
五十...四十...三十と距離はどんどん詰められる。
そして、頭の中が空っぽになった時、勇気がこみ上げてくる様な、
音が高らかに密林に轟いた.....
 
その瞬間体の身動きがとれるようになり、横に吹っ飛ぶ。
若干飛んだとき手を捻ったが、それほど痛くはなかった。
そして遙か遠くに、二人のハンターが。それは紛れもなく親父の姿だった。
「ジャック!何故ここにいるんだ!」
と遠くにいる俺に怒鳴る親父。
「採取の依頼を受けときたんだ!そしたら偶然遭遇してしまったんだ!」
と返事を返す。と雌火竜は、再びこちらに、突進を繰り出す。
「うわぁっ!!?」
俺は避ける事ができないと判断し、思い切って大剣を盾代わりにする。
「ガァァッキィィィィィン!!!」
大剣は激しい摩擦音を出し、その時、まだまだ未熟だった俺には
大剣を盾代わりにするのは、高度な技術だった。当然吹っ飛ぶ。
「うぅっ.......」
と意識が少し掠れる中、こちらに走ってくる者がいた.....
 
「ジャック無事か!お前は早く逃げろ!お前には到底太刀打ちできない相手だ!」
「くっ.....!!」
改めて自分の無能さが、悔しい。と背筋に寒気が走る。後ろには、リオレイア!
「ブレスを吐いてくるぞ!避けろジャック!」
「あ、あぁぁ...」
俺は腰が抜けていた。死そのものが、直前まで、きたからだ...
「くっ!」
親父なら、難なく避けられる攻撃だっただろう。なのに親父は
避けなかった。俺を突き飛ばして.....
「ギャアオォォォ!」
女王がブレスを吐いた時のその叫びが妙に、耳に残っていた......