二部 一章 中編 その②
 一章 王女とシュレイド王国 中編 その②
 
親父に、無数の火炎玉が降り注ぐ。俺はその光景を呆然と見ていた。
「お、おやじ.....親父!」
俺はすぐに駆け寄る。真っ黒になったその姿から、生きているとは、
思えなかった。生臭く肉の焦げた臭いが鼻を刺す。
「ジャック.......」
「親父!!?」
「俺はもうだめだ....」
「何いってやがる!親父死ぬな!!おい!」
「最後に俺の話を聞け....ジャック、自分の力を過信するな。大切な人、仲間、信頼してくれる人達ができたらそれを、命をかけて守れ.....約束だ....ぞ.....。」
ガクッ。それっきり動かなくなった........俺は怒り狂った。親父の大剣を
握り、奴に近づきそれをレイアの首もとめがけて振りおろす。
「ギャアァァァォォン!!」
おやじの大剣、アッパーブレイズの刃が一つ折れ突き刺さる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
泣け叫び、とにかく振り回した。怒りを乗せて。
 
........「というわけだったのさ。結局その一撃以外当たらないで逃げられたんだ。もう一人のハンターは、とっくの昔に逃げちゃってさ。噴煙で助けを呼んで、おれは助かったけどね......」
俺は、遙か遠くを俺と第一王女が乗っている馬車から見渡す。
親父との約束を貫く事を改めて、肝に命じた瞬間でもあった。
「それは辛かったんですね.......」
と俺に寄り添う自分より年下の王女。ドキッとした。
「貴方は、さぞ身を削り大切な人、仲間、信頼してくれる人たちを守ったんでしょうね.....」
と顔をそっと近づけてくる。吐息が鼻にかかり、顔が赤らめていくのが
自分でも分かった。
「でも、たまには休息をとることも大事ですよ?ジャックさん...」
唇がそっと近づき、触れる.....その時やっと王女の優しさを知った。
「あの...」
「私のことは、リラ、と呼んでください。」
「なら俺の事もジャック、でいいよ。リラ...」
顔が真っ赤なのは言うまでも無い。その時はリラが、俺の事を
想っていたのは、まったく気づかなかった.....
 
「おや?丁度到着したようですね?」
とリラが視線を送ってる方へ目をやる。遙か前方に何か見える.....
それは遠くから見ても巨大としか言えない街が姿を表した。
立派な城壁に、王国の出入りを唯一許す巨大な門。あのラオシャンロンでも
通れるぐらいに大きく、高い。
「そろそろ降りる準備を。父上がお待ちしているはずです。」
頭用防具をかぶり、形見の〈アッパーブレイズ〉を背中に納める。
防具はいつも通り、レウスSシリーズだ。この防具はどこからか、力が
湧いてくるくる感じがして、誇らしげな気分になる。
「さっ降りましょう。城までは遠いですよ。」
と指さす方向には、まるでおとぎ話で出てくるような、誰もが憧れそうな
巨大な城。その城はシェンガオレンの五倍はある大きさだ。
頂上は雲で隠れてよく見えない。
「すげぇ.......」
俺はそう言った。こんなに凄いものがあったのか?と聞きたいぐらいだ。
「さっ行きましょう.....」
俺はその後をついて行き、ただ街を、城を眺めていた.......
 
歩き初めてから約一時間.......どんだけ遠いんだよ!と、突っ込みたいぐらい遠い。
とそこでリラが口を開く。
「お腹すきません?」
グゥ~........そういえば野宿して食べたものは、木の実や果物だけだった。
確かに腹がすいたし、肉を食いたい。遠慮なく俺は空いてると言った。
リラが向かったのは、なんとも立派なお店だ。こんな店来たこと無い。
「さぁ入りましょう。」
と言い、中に入るとそこはムードの良い静かな店だった。
「なんか静かだな.....」
「これが普通なんですよ。何食べます?」
「やっぱ肉がいいよな。じゃメニューにある、〈モスの和風ステーキ〉で。」
「では私は、〈大王イカの霜降りトマトソースパスタ〉を。」
と店員がさっと来て、注文を聞くとかしこまりました。と言い奥に行った。
待つこと二十分......
「お待たせいたしました。注文の料理です。」
「おっ旨そうだな。では頂きます。」
といい一口頂く。.......?なんというか、....旨くないし、不味くもない。
不思議な味だ。これなら、ポッケ村の酒場で食ったモスの塩コショウ焼き
ステーキの方が断然うまいし、しかも安い。
 
「なんか.....微妙だな.....新鮮じゃないというか.....」
「えぇ。これも樹海に現れたモンスターや、近くに凶暴なモンスターが現れたせいなんです。遠くから仕入れるので、味が落ちるんです。」
「そうか.....じゃ明日にでも狩りに行くよ。旨い新鮮な肉が食いたいからな!」
「お願いします....ジャック...」
飯を食い終わり、城へと目指す。十分経ってようやくたどり着いた。
「ちかくから見るとさらにでかく見えるな~....」
「では、中におはいりください。」
中は、一面純白な輝きを持った壁が印象的だ。絨毯は、おそらくは、
雪獅子の毛で作られたものだろう。余計に中が白く見える。
「さっ、この中に我が父国王が居ます。....なるべく機嫌をそこねない方がよろしいかと...」
と言うと大きな扉を開け、
「父上。ただ今帰りました。」
と奥にいるリラの父、シュレイド国王に聞こえるような声で言った。
「帰って来たか。我が娘よ。その者が例の英雄と言われる、ジャック殿ですかな?」
英雄...まさかそこまで俺が有名になったとはな。
「はい、父上。この方ならあの飛竜を狩ることができるかと...」
「うむ。」
 
「ジャック殿よ。この依頼君に託したぞ。」
「はいっ。明日にでも狩りに出る予定です。」
「頼んだ。後は君だけが頼りだからな。」
国王との挨拶を終え、リラに案内され部屋にたどり着く..........
「.............」
「どうしたの?ジャック。口を開いたまま、呆然としちゃって。」
「いや、こんな部屋、ギルドが設備する宿にもなかったから。それにしても.......」
中の床は、蒼く透き通るような色をしている。おそらくマカライト鉱石で
作られたタイルだろう。壁は黄金の色と、紫のなんとも豪華そうに
見える鮮やかな色。こんなに綺麗な色をだせるものは、おそらくは
マレコガネと王族カナブンを使った塗料に違いない。龍木で作られた
木の大テーブル。そして椅子。なによりベッドは凄い。何故なら
見るだけで分かる。これはラージャン黄金の毛で作られた
毛布だ。シーツはケルビの皮か?まぁ上等なものには変わりはない。
ちゃんとハンターのためにも武器や防具を収納可能な箱が設置されている。
「今日はこの部屋で休んでね。夕食は夕方ごろにでも、持っていくから。」
「おう。じゃな。」
とそこでリラと別れた。
 
「ふぅ~.....疲れたな。」
といきなりベッドに倒れ込む。長旅で疲れたのもあるが、なにより
すぐ隣にシュレイド国の第一王女がいるとなると、どうしても意識して
しまう。しかし.....王女とのキスは衝撃的だった。未だに信じられない。
「................はぁなんか複雑だな。まだ明るいし外に行くか。」
外はまだ明るい。でかい城をさまよい、外に出た。王国だけ
あっていろんな店がならんでいる。街中を歩くと視線が俺に向く。
日頃酒場で慣れているが、こんなにも人が多いとさすがにきつい。
だが店の品物などを眺めていると気にならなくなった。と、その時だ。
さっき見た店から怒鳴り声が。
「誰かそいつを捕まえてくれ!」
どうやら盗人が物を盗ったらしい。そしてこちらに向かって走ってくる。
「どけ!死にてぇか!」
と刃物を向け走りかけてくる。俺は体制を整え、捕まえる体制に入る。
「この野郎!どけっていってんだろ!」
と刃物で刺しに来るのを、短い動きで避け、と同時に腹を殴り
下にたたきつける。そしてあっけなく気絶した。
「おぉ!兄ちゃんありがとな!」
と拍手が起きる。俺は恥ずかしく、そそくさ抜けて城に戻ってしまった。