二部 一章 後編 その①
 一章 王女とシュレイド王国 後編 その①
 
城では夕食をリラが部屋まで持ってきて、待っていてくれた。
「おかえり、ジャック。街はどうだった?」
「いや、良かったけどちょっと物騒だったな。盗人が物を盗もうとしてたから。まぁ取り押さえたけどね。」
「盗人は相変わらず減らないのよね。王女としても困ったものよ。」
「大変だな、王女も。」
「えぇ。普通の女の子として生まれれば、よかったなと思ってるもの.......」
「どうした?急に黙っちゃって。」
「.....前に私と会った事覚えてる?」
「え?酒場であったのが初めてじゃ.....」
「違うわ。もっと前に会ったよ。」
「え、............」
「まえにも、ここに狩りに来た時あったでしょ?眠鳥を狩りに。」
「あぁ、来たな。確かその時女の子がいて助け、」
「それが私よ。」
「え!?そうだっけかな?」
「そうよ。城を抜け出して近場の樹海にお花と採ろうとしてたの。そしたら眠鳥が現れて私が眠らされて、「死ぬ」と思って目がさめた時、貴方は私をお姫様だっこして、必死に逃げてた。私を守るために。」
「そういえばそうだったような.....あのときは守る事しか考えてなかったからな。」
 
そう言った時、リラは顔を赤らめていた。
「その時のジャック、かっこよかった.....」
「!!!??」
リラが急に抱きついてきた。免疫が低いジャックにとっては、
この行為はリオレウスの火玉に匹敵した。
「これは守ってくれたお礼ね。」
と言うと唇を寄せてくる。俺は戸惑いを隠せない。
そして二度目のリラとのキスは、触れた程度では無かった.....
これはテオ・テスカトルの粉塵爆発並だ。これ以上
耐えきれない所まで限界が来ていた。
「これは、おやすみのキス......」
そして今度は少し短いキス。もはや、今の俺には覇竜の
ソニックブラスト並の威力。俺の顔は、もう湯でたこ状態だ。
「おやすみ。」
と言うと部屋から出ていった。数時間全く動かなかった事は言うまでもない
 
一晩明け、昨日の出来事で眠れなかったジャックの髪は、ボサボサだった。
とても柔らかいベッドから起きて、カーテンを開ける。心地よい
太陽の光が俺を照らす。
「いよいよ今日だ.....にしても、モンスターの特徴を聞いてないな。」
迷ったあげく、特徴を聞く為リラの部屋に、さまよいながらも行った。
ドアをノックする。が、返事は無い。遠くにあった時計を見る。
まだ五時じゃないか。そりゃハンター達は起きる時間だが、
他の人たちは寝てる時間だ。
「しかたない、武器の手入れでもするか.......それに朝早くから、女の部屋に行くなんて非常識だったしな。」
と部屋の前から去ろうとした時、ドアが開いた。
「あれ?ジャックじゃない。どうしたの?」
起きたばかりだというのにその姿は普段と変わってはいなかった。
「あ、いやモンスターの特徴を聞きたくて来たんだけど.....」
「じゃあ中入って。ここで話すのもなんだから。」
俺は言われるままに中に入った。その中は俺が泊まった客用ルーム
以上に豪華な部屋であった。
「じゃ、まず...」
リラが何か言いかけた。
「?」
「おはようのキス。」
「ぶっ!!!」
 
思わず吹き出してしまった。何故こうお姫様と言うものは、キスが
そんなにも好きなのか分からなかった。しかも俺なんかに.....
超鈍感なジャックはリラが想っている事を、まだ知る由はなかった。
「今度はそっちからしてよ。」
「え!?」
まぁこういうのはあれだ、コミュニケーションみたいな物だろう。
しかたなく俺は唇を近づける。だがどうしても顔が赤くなり、
震える。
「まったくもぅ....」
俺がためらっているのを見たリラは、自分からしてきた。
しかし俺は今の状況を考えてみた。二人だけでまだ誰も起きていない。
カーテンが掛かっているので、部屋は薄暗い。たまらず俺は
顔が昨日以上に真っ赤になる。
「まったくキスぐらいで顔真っ赤にしないでよ。....きゃ!」
薄暗くよく見えない床に何かがあったらしく、リラが俺に向かって
倒れてきた。ポケーっとしてた俺は巻き込まれ一緒に倒れた。
その倒れた格好は誰が見てもいやらしいとしか言えない格好になってしまった。
俺はすぐにどいて立たせようとした時、リラの胸が顔に当たっていた。
免疫の低いジャックは、鼻血を出して気絶したらしい......
 
目が覚めたのはのは、六時頃。改めてモンスターの特徴を聞き出した。
「そのモンスターは影の如く素早く動き、手に強靭な翼を持っていて襲ってくるらしいわ。尻尾の一撃には気を付けろと、言っていたわ。その飛竜はこう名付けられたわ、迅竜ナルガクルガ。」
迅竜.......いままでに無い飛竜だな。気をつけなければ。
「比較的、気性が荒いわ。目が赤くなったら逃げて。その時奴は暴走するから。」
「暴走?」
「そう。見境無く暴れまくるの。その攻撃を喰らったら一撃で死ぬ可能性が高いって。」
「うん、教えてくれてありがと!じゃ後一時間ぐらいで出発するよ。」
「気を付けてね...死なないでよ。」
「当たり前さ。ここで死ぬ俺じゃないよ。」
俺はリラの部屋を出て、仮眠をとった.....迅竜との戦いに向けて。
 
一時間後、防具を纏い武器を背中に納め、俺は必要な道具をポーチに
詰め込んだ。このポーチは底が深く、色々な物が入る、
便利なポーチだ。モンスターの大きな素材などは、このポーチに収納
されている、アイルーの折りたたみ式の素材運び車を使用する。
それでも持ちきれないのなら自然に返す、これがハンターの常識だ。
準備を整え、出発した。見送ってくれる城の人達に手を上げながら。
木々が生い茂る森を抜け、迅竜が発見された場所〈樹海〉にたどり着いた。
拠点、ベースキャンプから眺める天まで昇る巨木が印象的だ。
あの巨木の中にある空洞は、チャチャブーの住処があったり、
飛竜の休眠所だったりする。
〈アッパーブレイズ〉に刃こぼれが
ないか念入りに調べ、携帯食料を無理矢理口に詰め込み迅竜を狩りに、
出発したのであった。
 
歩き続ける事三十分、ようやく巨木の根本にたどり着いた。
苔やら茸が生えまくった巨木は、ずっしりと構えていた。ここには
迅竜はいないようなので違う〈区域〉を探そうとしよう。
〈区域3〉。しゃがみ探す。ここには迅竜はいないみたいだ。と思った瞬間
上空から黒い影が舞い降りてくるではないか。その影は言うまでもない。
そう、迅竜ナルガクルガ!!着地したと同時に瞬時に後方にバックジャンプ
した後、威嚇の唸り声をあげる。俺は剣の柄に手を添え迅竜と
睨みあう。張りつめた空気が辺りに漂う。と一瞬の隙を突いたかのように
瞬時に俺の横に周り、強靭な翼を叩きつけてくる。
(は、早いっ!!!)
俺はとっさに剣を盾にするのが精一杯で、何とか耐え切れた。
「何だこいつは!?早すぎる!」
こんなに素早いモンスターがほかに存在しただろうか?
対抗策が浮かばない。
「どうすればいいんだ?.......」
俺は窮地にたたされた。
 
(大剣では相当不利だ。どうする?...)
敵は、瞬時に背後に回り攻撃してくる。剣を振りかぶった時には、
奴は避けている。閃光玉を使ってみたものの、見境なく暴れる。
「こうなったら罠しかないな...シビレ罠をしかけるか?だがそんな暇はないしな...」
考えている間に奴の尾から、鋭く刀のような堅さを持った針が無数に
飛んでくる。剣が針を弾き、金属音が鳴る。
(閃光玉を使うか。暴れるといっても、目を潰すから俺の居場所にはそう簡単には攻撃がこないはず......)
俺は奴が攻撃をして体制が少し崩れている所を見逃さず、閃光玉が
奴の目の前で炸裂する。
「ギァァオォォン!!?」
(今だ!!!)