二部 一章 後編 その②
 一章 王女とシュレイド王国 後編 その②
 
賺さず、その場から距離をとり地面に穴を掘る。そしてそこに
シビレ罠を叩き込み、シビレ罠を起動させる紐を引き抜く。
たちまちシビレ罠の半径10メートル以内に麻痺性の電気が地面につたう。
これは重さ500キロ以上のものの、動きを封じる。電気なので対電性のある
ゲリョスのゴム皮などはまったく通じない。
と、奴は視力を戻した様子でこちらを鋭い眼差しで睨んでくる。
こちらも睨み返し、すぐ足元にある痺れ罠に掛けるためにこちらに
おびきよせる。迅竜は確実にこちらに少しずつ寄ってくる。
(いいぞ...もっとこっちにこい....)
と俺も後ろにジリジリと下がる。と奴は俺の思惑通り、こちらに
突進してきてまんまと罠に掛かる。
(反撃だっ!行くぜ!!)
俺は剣を抜刀し、収納されていた血のような赤い五本の刃を、剣の柄を引いて
引き出した。
 
身動きがとれない迅竜に、斬撃を喰らわせる。五枚の刃が肉を斬り裂く。
血が剣を染め、振るう毎に血が飛ぶ。と、横薙に剣を振るおうとした時、
痺れ罠が破壊され迅竜は、俺との距離を開ける。その時だ。
「グアァァォォォォン!!」
と怒りを露わにした威嚇と共に、目が紅く血の如く煌めく。
体の毛が逆立ち、興奮している。
「これがリラがいってた奴か。様子を見て.....」
と思った瞬間奴の姿が消えた。
「し、しまっ......」
と言いかけた時にはすでに遅し、疾風と共に背後から迅竜の
強靭な翼が俺に襲いかかる。避ける事は当然できず、俺は斬り裂かれた.......
 
数十メートル吹っ飛んだジャックは、以外にも重傷は無かった。
(あっぶね~。防具に助けられたぜ~.....)
そう、レウスSの高い防御力と耐久力によって攻撃を
防げたのだ。レウスS防具の胴に、浅い傷が残る。
(だがどうする?.....あの速さに大剣ではついていけない。あれでは避けるのも難しい。)
と、言ってるそばから迅竜の猛攻が俺を襲う。すさまじい速さと威力。
大剣もギシギシと悲鳴をあげている。このままでは危ない。
(何か奴に決定的な一撃は与えられないのか!?)
とまた背後からの攻撃が襲う。背後ばっかり狙いやがって.....
背後?...俺が攻撃しにいくと、背後に回り攻撃してくるのが
ほとんど.....もしかしてこいつの“クセ”なのか?
だとしたらこれで決定打を与えられるかもしれん...このままやっても死ぬだけ。
賭けてみる価値はあるな...
 
俺はまず攻撃するチャンスを伺う。この賭けは非常にリスクが
高い。なので慎重にいかなければならない。まずはちょこまかと、
動き奴を苛立てる。それは三十分にも及ぶ。
「ハァ、ハァ.....さすがに疲れたが、準備は整った。」
準備、それは奴を苛立ててクセと思われる背後からの攻撃を
させるためだ。背後でなければ失敗だ。死ぬかもしれない...
「これが最後にならないように、願うしかないな.....」
剣を握りしめる。そして奴と睨みあい、迅竜に走り出す。
 
「うおぉぉぉぉ!」
俺は剣を迅竜の鼻先で振りかぶる。だが当然奴は素早い動きで
俺の視界から消える。気配で分かる。俺の背後だ。迅竜は今
俺に飛びかかってきているはず。俺はその瞬間を待っていた。
前方に踏み出した右足を強引に反転させる。足が悲鳴を上げるたが
気合いで耐える。その反転した勢いで腰も反転させる。その前に
現れた迅竜は、目を紅く光らせ飛びかかっていた。
後は奴の素早さに体が追いつくかだ。反転させた右足に力を入れ、
肩にのせるように持っていた大剣をありったけの力を込め、
振るう。奴の攻撃が先か、俺の攻撃がまにあうかに、全て委ねられた。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
「グガァオォォォ!!」
双方の唸り声が、樹海の一角に響き渡った.......
 
「ズシャァァァッ!!」
「ズバアァァァァ!」
樹海に不気味な音が響く。血が噴出する音だ。血が
樹海に生えた鮮やかな緑の葉を、紅色に染める。
しばらく沈黙が続く中、ジャックは倒れていた。
その体には大量の鮮血が。そして、その手には
〈アッパーブレイズ〉がしっかりと握られていた。
迅竜は、微動もしない。そんなのは、当たり前だ。
顎から脳までを半分に引き裂かれているのだから。
ジャックは迅竜を殺した。だが、奴を殺したと
同時に強靭な翼の攻撃を喰らったのだ。その攻撃に
よって数十メートルぐらい吹っ飛んだ。
そして現在の状況にいたる。ジャックは、痛みに耐えながら
体を起こした。迅竜にやられた部分は、斬り裂かれ
鱗がこびり付いている。
「剥ぎとってさっさと帰るか。」
と呟き、剥ぎ取り用小型ナイフを突き立てる。
と、その時だ。上空に新たな影が。
俺はそれを見たとき絶句した。
「う、嘘だろ.........」
俺は震えてこう呟く事しかできなかった.....
 
「も、もう一頭.......」
そう俺の目の前に現れたもう一つの影。迅竜ナルガクルガ。
しかもさっきのより圧倒的にデカイ。もしかしたらキングサイズ
かもしれない。今の俺には到底狩る事はできない。だが、やるしかない。
「うおぉぉぉ!」
剣を横薙に振るうがかすりもしない。奴はバックステップを
してかわし、体制を低くし何やら唸り声をあげた。その瞬間
奴は低く跳躍し、巨大な強靭な尻尾を叩きつけてきた。
剣に全体重を乗せていた俺には避けるすべはなく、地面に
押しつぶされた。
「がはっ!!...」
体中が変な音をたてる。確実に
肋骨は三本は遣られた。呼吸が苦しくなる。
「ぐっうぅぅ....」
地面にめり込んだまま、立ち上がる事ができない。
迅竜は喉を低くならし、今にも俺に食らいついてきそうだ。
俺はここで死ぬのか............そう思った瞬間、意識は掠れていった。