二部 二章 前編
 二章 狩人達が目指すもの 前編
 
長らく馬車に揺られ、ようやく第二の故郷と言えるポッケ村に
帰ってきた。このほのぼのとした感じ、帰ってきたなと実感がわく。
水車の回る音と、村人達の立ち話しが聞こえる中、酒場に向かった。
やはりいつもと変わらないにぎやかさ。煙草と酒の臭いが充満
している。とそこに一際目立つハンター達がいた。
黒髪の蒼い目が特徴的な美人ハンター。ヘレン以外のなにものでもない。
「ヘレン!!」
そう呼びかけた時、驚いたようにこちらを向いている。
「ジャック!!きてきて!」
一体なんだ?近づくとそこには、新米ハンター誰もが憧れる
階級の昇格書だった。
「なっヘレンも〈G級ハンター〉になったのか!?」
「私だけじゃないわ!フラックとリースもよ!」
とヘレンがいうと、傍にいたフラック達が紙を見せてきた。
確かに〈G級ハンター〉とはっきり記されている。でも変だな。
フラックとヘレンはともかくリースは、まだ〈G級ハンター〉になるには
まだ早すぎる。とそこに受付嬢のサラが近寄ってきた。
 
「あら、久しぶりねジャック君。」
「やぁサラ、久しぶり。実は聞きたい事があるんだ。」
「......わかってるわ。ヘレンさん達の〈G級ハンター〉昇格についてでしょ?やむをえなかったの。」
「やむをえない?何故なんだ。」
「実は〈G級モンスター〉の、繁殖が急激に増加してしまったの。ギルド本部は、各村のギルドに〈G級ハンター〉を多少条件を満たしてなくても、昇格させる法案が出されたの。」
「そんなのは無茶だ。ただ有望なハンターが消えるだけだ。」
「だけど、暢気な事をしてたらあっという間に百、二百って増えていくわ。」
「...わかった。用は〈G級モンスター〉の頭数を減らせばいい訳だな。」
「まぁそういう事ね。」
「よし、じゃあ明日から〈G級モンスター〉の討伐依頼を集中して受けよう。」
と隣にいたヘレンが立ち上がる。
「そうね、我々フィアーズが徹底的に依頼を消化してあげるわ。」
「なら、早速この依頼を受けてもらいたいの。」
 
サラが俺達に見せた紙には、〈雪山・大連続狩猟依頼〉
と記されている。
「何だ?この依頼は。」
「この依頼は、雪山に現れた〈G級モンスター〉を一斉に狩猟してもらうよう頼まれたものよ。」
「例えばどんなモンスターなんだ。」
「行ってみれば自ずと分かるわよ...この依頼、契約金2000ゼニー、報酬金19500ゼニー支払うわ。」
と表情をさっきまで明るかった時と違い冷たい表情になって言った。
「随分と高額な依頼だな。...それだけ難しいって事か。」
「えぇ。この依頼ははっきり言って、貴方達でも必ず成功するとは、限らない。」
「狩りに必ずなんて元からないさ。明日には狩猟に行こうと思う。」
そう言い放つと俺はその場から静かに席をはずした。
「頑張ってね。生きて帰ってくる事を願うわ。」
サラはそうヘレン達に囁くと、カウンターに戻っていった。
「大変な明日になりそうね.....」
「ククク。やるしかないようですね。新しく強化した武器の性能を試すのに使えそうですし」
と背中に納めていた武器が、鈍く煌めいたようにヘレンには見えた。
「ゴクッ。」
リースは唾を飲み込んだ。
この時フィアーズに危機が訪れる事をまだ誰も知らない...
 
ー夜ー
ジャックはよくある普通のベッドの上で、シュレイド城の
あの豪華な部屋を懐かしながら、明日の狩りの事を考えていた。
「雪山の〈G級モンスター〉を一掃か...厳しい狩りになりそうだな。」
そう呟いていた。正直、この依頼を成し遂げる自信が無い。
なにがでるか全く分からないし、〈G級モンスター〉が
どれほど強いかも分からないからだ。もしかしたら、それほど
強くなかったりと考えるがそれは無いだろうと思う。
上位級であれほど強いのだ。半端ない強さだろう。
しかしそれで臆するなら、その依頼は受けない方がいい。
「明日に備えてもう寝るか。」
睡眠不足で満足に動けないなんて問題外だ。長旅で疲れた体は
わずか五分程で深い眠りについた...
 
翌朝、俺達は集会所に集まっていた。朝方は寒いので、あったかい
ミルクを啜る。ぶるっと体が震えた。本当なら雪山に行き、狩りをするはずなのだが、
俺達は集会所で何をしようか考えていた。何故行かないのか、
それは...
「ピュゴオォォォォォォッ!!」
吹き荒れる激しい吹雪。それが狩りに行かない、いや行けない理由だ。
昨日の深夜から吹雪が吹き荒れ、外を歩けないような状況である。
さすがにハンターでもこの天候には勝てない。雪山の麓でこの吹雪では
山頂近辺では、もっと酷いはずだ。
「はぁ~。どうする?このままじゃ外を歩く事もできないぜ?」
「だからどうするか、決めてるんでしょ!」
ヘレンが不機嫌そうに言った。俺もその気持ち分からないわけでは無いが...
「ククク。この武器の性能を確かめるいい機会でしたのにねぇ。」
頭用装備をしているため、表情は分からないが内心は苛立ってるはずだ。
何故ならフラックがいつもしていない動作をしているからだ。
腕を組み、足を落ち着かない様子で動かしている。これはフラックの癖だ。
とそこにリースが慌ただしくやってきた。
「師匠!吹雪収まりましたよ!」
 
「は?さっきまで吹雪が吹いてただろ。そんなに急に止むはずがないだろ?」
「とにかく止んだんですよ!突然、吹雪が弱くなったと思ったら...」
俺は集会所の出入口に駆けた。...妙に静かだ。まさか本当に
止んだのか?と考えながら扉を開ける。
「本当かよ...ありえねぇ。」
目の前に広がった青空、雲一つ無い。余りにも信じがたい。
これは異常といっていい。ついさっきまで吹き荒れていた吹雪が
急に止む。俺にはある一つの仮説が思い浮かんだ。鋼龍クシャルダオラ。
この吹雪は奴の仕業だったのかもしれない。だがあんな強い吹雪
が鋼龍によって吹き荒れたことは一度も無かった。それに急に止むということは、
もしこれが鋼龍の仕業だとしたら、誰かが狩ったということになる。
もしくは、鋼龍以上の強さを持つモンスターが殺した、となる。
ならば一刻も早く真相を知る必要がある。鋼龍を上回るモンスターが
雪山に居るという事は、非常に危険だ。
「ヘレン!フラック!リース!行くぞ!!」
今はとにかく雪山に行く必要がある。ヘレン達は暢気に鼻歌を歌いながら、
防具を武器を装備している。準備が整い雪山へと向かった。
雪山で起こっていた戦いを知る由も無く。
 
 ー雪山・山頂付近ー
 ・・・おかしい。普段なら聞こえるはずの鳥達の鳴き声が微塵も聞こえない。それにモンスター達の姿が何処にも見あたらなのだ。まるで古龍が現れたかのように・・・
「気を引き締めて行け・・・何が起こるか分からないからな・・・」と、声を潜めて言う。
 ヘレン達も察知していたのだ。今雪山で起こっている異常に。と、その時だ!
「ゴオォォォォォォォォ!」
 雪山に突然の轟音と共に微かに聞こえた断末魔の声。俺の思ったことが正しければそれは轟竜のものだ。
 だがこれではっきりと分かった事がある。これはモンスター同士の戦いだということだ。あの轟音の正体は恐らくは雪崩だ。しかもかなりの規模に違いない。なら、かなりの巨体に間違いはない。だとすると・・・
 俺の頭に神話とも呼べる、ある絵本の話が浮かんできた。
「白き神、破壊をするものなり。白き神、創造をするものなり。白き神、全てを司るものなり、そのものの名を〈崩竜〉と呼ぶなり・・・」
 
 何故こんな事が頭に浮かんでくるのか分からない。だが・・・何か、絶対的な存在のモンスターがいる。俺は直感でそう思った。
 だがそんなモンスターを野放しには出来ない。せめてどんな形、格好なのかを見ておく必要があった。
「・・・行きましょ、音がした方向へ。」ヘレンは体を少し震わせて、そう言った。
「賛成です。嫌な感じがビンビンと伝わってくるこの感じ・・・強大な力を持つモンスターが現れても不思議じゃない。そんなモンスターは放ってはおけませんからね。」フラックが重く口を開きそう言い放った。
 皆、そう思っていたらしくお互いに頷き、音がした方向へと歩いていった。
 この先に潜む白き神の存在を知る由もなく・・・
 
 どれくらい歩いただろうか?軽く一時間は歩いた気がする。雪を踏みしめながら、轟音が起こった所にフィアーズ一行は歩いていた。
「何だか大分奥に歩いてきたな。道に迷わなければいいが・・・」とぼやく俺。だが誰も聞こえていないようだ。
 無理も無い。ここは本来ならば、人が足を踏み入れてはいけない〈神の領域〉と呼ばれている所だったからだ。無論、俺も来たことは無い。何故ならここに足を踏み入れた者は誰一人帰ってきたことは無いからだ。
 〈神の領域〉とは正式には〈雪山・深奥〉と呼ばれているが、ハンター達の中では神の領域とも呼ばれていた。そこは人もモンスターも住む事が不可能な極寒の区域。モンスター等居るはずがない。だがそこに訪れたハンター達は二度と帰って来なかった。
 他のハンターが捜索に向かうが行方不明になる始末。それ以来皆、気味悪がって訪れにいく者はいなくなった。それから〈雪山・深奥〉には神がいると噂されていった。
 神の領域に足を踏み入れた者は神の逆鱗に触れ、二度と帰ってこれないと。だからヘレン達も緊張して、俺の小声など聞き取る余裕が無かったのだ。俺も言えたもんじゃないが。
 
 その時だ。突然、吹雪がまた吹き荒れた。これはポッケ村で吹いていたものより遙かに激しいものだった。
 俺は直感で察した。あのポッケ村で起きていた吹雪は鋼龍のものでは無いと。別の何か、恐ろしいモンスターによって起こされたことだと。その瞬間、近くにあった氷湖が静かに揺れはじめ、それが段々強くなっていく。
 一瞬、揺れが収まったと思った時、現れた。神話で語り継がれた〈白き神〉が・・・
「グァァォォォアァァァァァァァァァァ!!!」
轟音と雪崩と共に・・・
 
「何だ!?この巨大なモンスターは!」反射的に大剣【アッパーブレイズ】を構える。
 俺は察した。こいつがここ、神の領域(雪山・深奥)に訪れたハンター達を次々と殺していったということを。そしてこいつが神の領域の【神】だということを。
「ジャック、戦いましょ。色々と準備してきたから、狩れるはずよ。」
 ヘレンはそう言った。だが俺はそれよりも、なにかが頭で引っかかっていた。
(こいつ、だんだんポッケ村に近づいてきてないか!?)
 現在いる場所は雪山・深奥のまだ結構手前の方だ。それに俺達を発見して氷湖から出てくる時も、まるで目的地に行く途中に遭遇したかのような出方だった。その方向は紛れもなくポッケ村。
 もしここで俺達で狩ることが出来なかったら、何も気づいていないポッケ村は、ただただ破壊される事になる。
 ここは一度退き、ポッケ村に雪山・深奥で現れた巨大なモンスターが接近している事を報告するのが、先決だ。
「ここは一度退き、ポッケ村に状況を伝えるのが先決だ。引き返すぞ!」
 ヘレンは何故?という顔をしていたが、すぐに察したようだった。俺達は背中を向け走り駆けた・・・