AS 41~49

 四十一話

 

 

 

 

 

 

「キュワァ・・ア・・ア」 「フリー・・・ド・・?」
 双剣は、深々と腹に突き刺す。いまさら、滝のように流れる血などなんとも無い。
奴は、力なく呻き、口から血を大量に吐いた。
 引き抜き、もう一振り入れようと振りかぶると、奴は最後の力で、背を向けて走り出
す。追いかけられた時とは明らかに遅いが、今の二人から逃げるには十分だった。
「逃がすかァッ!!コノヤロォオーーーッ!!」
 そう叫ぶが、動かない体で無理して立ち上がり、激しく暴れ、今フリードの体の限界は
とっくに超えていた。
 ・・・・バシュウ・・・ドゴオォォッ!・・・・ズササァ・・・
 遠くで奴は力なく崩れ落ちる。
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ッ!? 何が起きた?
「後衛は・・・任せてって・・いったでしょ・・・?」
 微笑んで言い放ち、気を失う。ミリーは、最後の徹甲榴弾を撃ったのだ。
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 体が動かないなんて関係ない。ミリーが最後に作ってくれたこのチャンス、無駄に
    するかァア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十二話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴に走り寄る。奴の足はあらぬ方に曲がっている。逃げることも出来ず、反撃することも出来ず。
しかしその眼は、それでも勇ましく輝いて俺を見ていた。それはまさに、飛竜の風格だった。

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これが、お前の誇りか・・・。この一撃ですべて終わる。

「ハアァァッ!!」
 ・・・・・ズシャアァァ・・・キュウゥゥ・・・・。
 
       奴は、小さく呻いて・・・静かに息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十三話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリードは、その場に倒れた。バトル装備はボロボロになっていて、ツインダガーは
刃こぼれしてしまっている。
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 一杯斬ったからなぁ。防具、スミスさんに修理してもらわないと。
「うぅん・・・。ッ!? フリード、フリードッ!」
 気がついたか。無事でよかった。
「俺はここだ。奴は倒しておいたぞ。」
「本当!? よかった・・・。フリード、体の方は?」
「・・・コレが大丈夫に見えるか? とりあえず、座らせてくれ。この体勢ツライし、自分
 で動けねぇ。・・・・・うぁっ!?」
 体が、一瞬大きく震えた。
「何今の。どうしたの?」
「あ、ああ。なんでもない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十四話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------何かがおかしい。何かが〝ここを離れろ〟と告げている。
    土の匂い、樹の匂い。・・・ニトログリセリンの匂い?・・・しまったッ!!
 空を見る。やっぱりそうかッ!!
「火炎液ッ!ミリー上だァ!」
「え?」
 ミリーは安心感で、完全にもう一匹のイャンクックの存在に気がついていなかった。
空中で火炎液を撒き散らした。弾幕状に火炎液がとぶ。
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ダメだ。今度ばかりは・・・逃げ切れない!
「ぐあァァッ!!」「きゃあァァーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十五話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火炎液が、剥がれた防具の隙間から染みてくる。二人がもがき苦しんでいる時、
奴は旋回して、二人のところのほうに突っ込もうとしている。
 その瞳には、仲間を殺した者への尋常ならざる怒りを宿しているように見えた。
「逃げろ!俺はもう動けそうに無い!」
「ダメよ!フリード一人置いて逃げるなんて・・・」
「お前はよくやってくれた。お前に救ってもらった命、お前のために失うならかま
 わねぇっ!」
 だが、ミリーは重々しく立ち上がる。無理にもフリードを担いだ。
「一生懸命助けた命なのに、簡単に死ぬなんて言わないで!」
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ミリー・・・、何でお前・・・見ず知らずの俺なんかのために・・・こんな
    こと・・・・・。
 無情にも、奴の滑空速度は加速し続ける。足元に輝く銀の刃が刻一刻と迫って来る。
こんなスピードで逃げていては、必ず奴の餌食だろうと。きっとミリーもこれでは逃げ
切れないことなど、とっくに気が付いているだろう。
       ・・・・・ドサァ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあッ!!」 「きゃっ」
 転んだというより、誰かに押し飛ばされたというべきか。
「二人は後ろに回れ! もう一人はそこに倒れているハンター2人を安全なところへ!」
「サーッ!」
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見慣れないハンターが4人!?一体何が起きている?
「さあ、二人はこちらに。安全なところへ!」
 大砲のような巨大なボウガンを担いだ男が近寄ってきて、俺とミリーを物陰に引っ張っていった。
 命令された、銀の甲冑を着込んだ二人のハンターは、ハンマーで奴の死角から両足を叩きとばす。
鈍く潰れるような音がした後、派手に転ぶ先には、体を沈み込ませ深々と大剣を振りかぶる、一人金の
紋章のついた甲冑を着た男がいた。
「でぇやぁぁぁぁあああっ!!!」
 奴の顔面に、刃が深くめり込み、雨のような血しぶきが降る。
    ・・・・・開始わずか数分、たった三撃で奴の息の根は止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十七話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は、今何が起こったのか、理解しようとすることに精一杯だった。
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イャンクックが・・・奴が・・・こんなあっさりと!? そんな!何だこいつらはっ!!!
「彼らはギルドナイト。ギルド直属のベテランハンター達よ。」
 ミリーは、俺に察してそういった。
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ギルドナイト? 何でそんな人たちがここに?
 奴の止めを刺した大剣のギルドナイトが寄ってきた。
「どうやら、ギルド側の不手際で状況報告にミスがあったようです。イャンクックなどの飛竜が複数目撃されているようなので、
 あなた達は、とりあえず連絡船から非難してください。ここからはギルドナイツと、援護のハンター達で何とかします。」
「あ、ありがとう」
「此度については、後ほどギルドから通達があると思います。では、失礼します!」
 一礼して、部下を引き連れて森の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十八話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、もう無事みたいだ。そう感じたのか、二人は大きなため息をついて大の字に寝転ぶ。
汗をかいた肌の上を、心地よい風が通る。いつの間にか、辺りは薄暗くなっていて空には一番星が輝き始めていることに気がつく。
「・・・・・帰ろうか、ミリー!」
「・・・・・そうね!」
 二人は、ニコっと微笑んで顔を見合わせた。フリードはミリーの肩を借りて立ち上がり、連絡船の方に歩き始める。
 木々は、サワサワと二人を見送るように、涼しげにゆれる。雷光虫がやんわりと輝き始め、暗くなってゆく道を照らし始める。今なら、何とな
く分かるような気がする。ハンターとして生きる意味が。自然の一片として生きていることが。
「ミリー・・・ありがとうな。」
「何よ、いきなり。」
「何度も迷惑かけて、何度も助けてもらって。」
「そうね、あなたと居るとホント危険が一杯だわ。さっきはもう死ぬかと思った。 でも・・・・。」
 握っている手が、強く締まる。ミリーは大空を見上げていた。
「あなたは、私の前に立って何度も私を守ってくれた。傷だらけなのに、危ないのに、逃げ出さないで守ってくれた。 だから・・・」
 星は、空を明るく彩る。微笑むミリーを綺麗に照らした。
「だから私からも・・・ありがとうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四十九話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

船にたどり着くと、ミリーは簡易ベッドに横たわり、すぐにも寝息が聞こえた。
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色々あったから無理もないだろう。しっかしホント幸せそうに寝るよなぁ・・・。
「お疲れ様ニャ、出発するニャよ?」
 短く返事をかえし、ゆっくりと船は出航した。ベッドを背に、フリードも腰を下ろす。
「今日は一段と星が綺麗ニャねぇ。」
「ああ、そうだな・・・。」
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記憶を失くす前も、こうやって空を眺めてたのかなぁ。
 静かな波の音に耳を澄ませ、壮大な夜空をどこまでも穏やかに見つめる。
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ミリー。俺がお前を護ってやる。お前が俺にそうしたように・・・。
 やがて、フリードも穏やかに眠りについた。
「二人ともよっぽど疲れてたのニャね。無理もないニャ。」
 空に明るく流れ星が瞬く。遠くに見えるココットの村に静かに消えていった。
「流れ星・・・。なんか良いことでも起こりそうな気分ニャ・・・」

              一章 新たなる出会い 終