虚空 第八章(後編)
 第八章 ハッピーイベント勃発(後編)
 
この状況は最悪に悪いに限りは無い。
キリンは踵を返しつつ雷撃を降らすもののすぐに
移動していたためそこには居ない。隣に居たはずの
ホロはキリンの頭に「トンッ」と足を付けたかと
思ったとき雷撃の如く斬撃が舞う。切り刻まれても
闘志を失わないキリンには敬意を表したい。
「ロベルト様はわっちが護る。わっちとめおとに
なるお人じゃ、決して死なせる事など出来んせん、
キリンよおぬしはここで消えるんじゃな、わっちの
恋路を邪魔するおぬしは消えるのが道理じゃの」
そういうホロの攻撃は一層重みとキレ、速さなどが
高まる。俺も腐食の加護で肉質を柔らかくした
所に斬撃をぶち当てる。腐食の加護により弱まった足は
簡単にぶち切れ吹き飛び溶岩へとダイブし「ジュゥゥゥ
ーーーー」と音を立て溶けていく。足を一本失ったキリンは
バランスを崩し倒れこむ。四本から三本になったため
バランスが取れず立ち上がる事が出来ないここまでくれば
此方のものだったはず…
 
その時「ズバァッ」と音を立てて切ったはずの足が
再生する。俺は心の中で(いつぞやに見た漫画の
ピッ○ロかよwwwww)とツッコミをしつつ身体は
戦闘態勢をとっていた。何分間か身体が事態を
飲み込めず固まっていた。そのせいでキリンは
立ち上がり此方へと向かってきた。やっと動き出した
身体では避けられず「ズガン」とキリンの足が
俺の身体を吹き飛ばす。地面に叩き付けられた時
「バキッ」と鈍い音を発する。
立ち上がろうとするも胸の辺りに激痛が走り倒れる。
だが足にも激痛が走る、どうやら肋骨が折れ、
大腿骨にヒビが入っているらしい…
それでも気力で立ち上がり刀を握る。
「ぬし様よ、無茶するでない、死ぬぞよ。
ぬし様にしなれた日にはわっちも死にまする。
泣きじゃくるホロが駆け寄りなにやらまた謳いだす。
だが今度は回復する気配が無い、ホロは何度も歌ったが
やはり回復しなかった。「精霊達が疲れきって居るらしく
力を貸してはくれなかったでありんす」「仕方ないさ…」
まだ一つだけ手があった。俺は折れた骨を創造の加護で
再生させる…キリンは驚いただろう殺したと思った相手が
三度立ち上がったのだから…キリンよもう好きにはさせない
これからが俺たちの反撃の始まりだ…
 
そう思った時にはホロは駆け出しその速さは目で捉えきれる
速さではなかった時折鮮やかな茶色の風が吹いた様な残像
が見えるだけで分からない。キリンはお構いなしに俺に
雷撃を撃つ。読みきれず直撃を浴びる。「グガァ…」
とうめき声を上げ膝をおり地に伏す。その時俺を緑の煙が
包みテントに戻される。テントにはホロが呼んだらしき
医者が待機しており俺が戻ってくるとすぐ治療を始める。
その一方でホロはキリンと戦っていた。「ぬしよよくも
大事な主様を…わっちはぬしを許さぬ、素材がギリギリ
取れる位まで残して切り刻んでくれるわ、ぬしの素材は
わっちを引き立てるからの、主様のハートをゲットするため
の糧と成るが良い」そのホロの姿は怒りによって
尻尾の毛は逆立ち、歯を剥き出し、その姿は怒り狂った
狼を思わせる。
途端に全身から毛が噴出しトランス状態に入る。
「ここからは主様を護るわっちの戦いじゃ」
一方キリンはその闘志に答えたかの様に
立ち止まっていた…
 
両者にらみ合い一歩も譲らない、遠くで火山が噴火を
起こしたのをきっかけに戦いのゴングがなったかの如く
両者が動き始めた。先制をかけたのは速さで勝るホロだ、
刃を持つ手に力を込め舞いを思わせる剣技で鮮やかに
切り裂いてゆく…だが一方で俺は治療が終了しホロの援護に
向かう道中でイーオスの大群に道を阻まれていた。俺は
傷の具合を気にしながらイーオスの大群をまるで埃を払う
かのように切り払っていく。飛び散っていくイーオス達
だがその数は一向に減らない何故かキリンとホロの戦いの
中に入れさせないようにしているように見えた…またその
一方で力で勝っているキリンは雷撃を感覚を狭めて撃つ。
だがホロは一瞬の隙間を見逃さずひらりと避けていく
とても鮮やかな回避だ。それでも不意に落ちてきた雷に左腕を
焼かれる…苦痛に顔をゆがませながら残った
利き腕の右腕を使って片腕の損傷を気付かせない様な戦いを
している。
俺はイーオス達の死骸の山を越えやっとホロの元へとたどり着いた。
ホロは左腕を焼かれ使えないが、キリンも立っているのが限界
だろう、両者が最後の一撃を見舞おうと突撃する。ホロは右腕で
剣を力強く握り最高威力の一刀を振り下ろす、キリンはその角を
突き刺そうとする。ぶつかり合い走り抜ける。
一瞬の静寂の後ホロが倒れる。
キリンも倒れる。
どちらが勝ったのかは分からなかったが、弾かれたように
俺はホロへと駆け出した。
途中こけかけて傷口が開いたが気にする事無くホロへと
かけよった。
ホロは生きていた。疲れきって倒れたのだ、キリンは
微動だにしない。
という事はホロが勝ったのだ、ホロを担ぎキャンプへと戻ろうと
したとき後ろで轟音がしたかと思うとアカムトルムがそのデカイ牙で
地面を掘り進みここにやってきたのだ。
キリンの死骸は素材等を剥ぎ取られ体格などのデータを
取り終わられ放置されていたためその死骸を喰おうと
やってきたのだろう。
俺たちはすぐ村へと戻った。
この後人生の最大イベントとそれによる試練を知らずに…